ロシア語に漠然と興味を持ったのは、20歳だった。しかし、結局、手をつけないまま時が流れて気づけば俺は26歳になっていた。

去年(2011年)の春から今年(2012)の春にかけて、俺は家でボーっとするだけで何もしていなかった。 インターネットをして時間を過ごし、ご飯を食べて寝る…それだけだった。

今年の4月に思い切って安い中古車を買った。そして、4月の初めから派遣として化粧品工場で働き始めた。 仕事ができない俺は、自分が惨めに思えてきて、わずか1ヶ月半で仕事を辞めた。

俺は、ひきこもり生活に戻ってしまった。

特になにもすることもしないで5月が終わって、6月も終わり、7月の終わりに入った頃だった。 ふと、語学の勉強をしてみようと思った。

昔から、漠然と憧れていたロシア語だ。

いつもは、「どうせ俺なんかやってもあかん。英語すらまともにできないやつがやっても無駄だろう」って言い訳をしていたけど、 この時だけは少し違った。

今、一生懸命ロシア語の勉強をしていれば、「あの時やっておけばよかったなあ…」って後悔しなくなるだろう と思った。 どうせ勉強するなら検定を受けてみようと思った。

検定の申込み受付開始の5日前だ。

とりあえず行動しよう。

2012年7月27日、インターネットで、NHK新ロシア語入門 を注文した。 そして、本が届いたのは、2日後の29日だった。 ここから、俺のロシア語学習の69日間が始まった。2012年7月29日から2012年10月5日までの69日間だ。 そして、10月6日はロシア語能力検定試験だった。

ロシア語にふれるためNHK新ロシア語入門に付いていたCDを流してみた。 英語と違ってとても新鮮だった。 ゲームでいうなら新しい洞窟を発見したような気分だった。 聞き流しているうちに、ロシア語の「音」というものがなんとなくわかった。

なんとなくで実際には理解していなかったが…。

第1課をざっと聞き流し、弟2課に取り掛かることにした。 自分の性格から熱が冷めないうちに、ロシア語検定4級の範囲である35課までは通したかったからだ。 大凡の目標として、15日間で35課まで終わらせることにした。

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始めにCDを聴いて、本文を書き写し、またCDで確認して、その課で出た単語の暗記。そして、次のページに出てくる文法の解説もノートに書き写した。 実は、朗読の練習は、この時点ではほとんどしていなかった。 語学の勉強で、朗読はすごく大事なことであるのは間違いない。 しかし、俺の家は、あまり声を出すにはいい環境ではなく、朗読することをやめてしまった。 言い訳に過ぎなかったが…。

そして、20課まで終わると、勉強の進むペースが落ちてきた。 勉強をサボっているというより、難しくなってくるとなかなか進まなくなった。 それでも、できるだけ1日3課分は終わらせようと決めた。

30課あたりで、息切れモードになってきたが、とりあえず形だけでも35課まで通すことができた。 教科書に書き残したメモによると、この時の日付は、8月17日だった。 結局、予定よりも数日ほど遅れてしまった。

この時期あたりだろうか、取り寄せた単語帳、露和辞典、そして過去問が届いた。 過去問を一度解いてみた、というより眺めただけだった。 自分が思っていたものより難しかった。 焦った。 しかし、あきらめなかった。

35課も終わり、試験まで4級で出るところだけをやろうとも思った。 しかし、せっかくやるからには、教科書の最後まで通したいという思いから36課から50課までもやることにした。 2週間で36課から50課まで通すことに決めた。 そして、これに加えて単語帳の暗記に取り掛かった。
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単語帳に出てくる1000語ほどの単語すべてに、発音の仕方をカタカナで書き込んだ。 また、4級に出題された単語には、赤でチェックをつけ、出題されてなくても重要そうな単語には、青でチェックした。 単語帳が意外と見やすくなった気がした。

独学だとやはり挫折の波というものがやってくる。 俺が住んでいる田舎からは、長島スパーランドの花火の音がよく聞こえた。 真夏の夜だった。 自分のひきこもりとしての現実に少し気持ちが参ってきた時期だ。 でも、ロシア語の勉強を投げ出さずに続けることにした。

8月24日に50課まで通し終わった。 ほとんど忘れているなと思ったらやっぱり忘れていた。 今までの経験からわかっていたことなので問題なかった。 また、1課から戻って復習することにした。

8月31日、ロシア語能力検定4級の申込みをした。 試験まであと1ヶ月ほどだった。 まだまだ合格といったレベルではなかった。

単語帳の例文をひたすら書き写していたら、自然とロシア語の格変化にも慣れてきた。 9月下旬に入って再び過去問を眺めてみたら、問題が解けるようになっていた。 一ヶ月前は、ほとんど理解できない問題が解けたときは、少し感動してしまった。

もう少しがんばれば合格できると思った。

試験まで残り2週間に入ったところで、朗読の練習に取り掛かった。 ネットで調べたら朗読で不合格になることもあると耳にしたからだ。 過去問のCDを聴いてみたり、採点でどこを注意して聴いているのかを確認した。 ひきこもっていて、普段あまり声を出さないので、声を出す「朗読」はとてもひきこもりにはつらい作業だったが 合格したかったので、朗読することにした。

朗読して、初めて「朗読」の大切さに気づかされた。 朗読をすると、自分が思っていた以上に発音ができなかった。 再び焦った。

試験まで時間がなかったが、あきらめずに朗読を続けた。 次の日に、声が嗄れることもあった。

9月も終わり、10月に入った。

そして、検定試験の日がきてしまった。
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地下鉄新栄町駅で降りて、近くの道のベンチに座って、昼食をとった。

「69日間の勉強の成果が今日試されるんだな…」

そう思うと、なんだかドキドキするような寂しいような気もした。 別にロシア語の勉強をやめるつもりではなかったが… やはり一つの区切りとして考えると、ここで学習が止まってしまうかもしれないからだ。

そして、昼食を食べ終えて、30分程前にユーラシア協会のあるビルに到着した。 階段を上がると、一人の女性が階段から降りてきた。

「Здравствуйте!」

突然の挨拶に俺は驚いてしまった。 初めてロシア人と挨拶を交わした。 僅か一言の挨拶だったが、今でもその瞬間を鮮明に覚えている。

初めてロシア人と話した、

それだけでうれしかった…。

試験会場に入ると、先着の方が6人くらいいて、検定試験の勉強をしていた。

この会場にいる人みんなロシア語の勉強しているのかなとか考えると思わずニヤついてしまった。 傍からみたら気持ち悪かったかもしれない。

試験開始の5分前になった。

やがて、5分が過ぎて、試験開始の合図とともに試験が始まった。

問題を解き始めた。

文法は、なんとかなりそうだった。アクセントや発音もしっかり勉強したところが出題された。

露文和訳も時間さえあれば、もう少しできた。

そして、一番の不安要素だった和文露訳も単語がわからないところもいくつかあったが、 なんとか全部埋めることができた。

そして、90分はあっという間に過ぎた。

筆記の試験が終わると、次は朗読だった。

一人ずつ3階の録音室に呼ばれて、朗読の試験が行われた。 試験監督の方も穏やかで、いい人そうだった。

朗読は、試験当日まで思ったよりも伸びず、最後まで苦手だった。 試験本番でもかなりひどい感じになってしまったが、時間内に最後まで読むことができた。

録音が終わり、ロシア語の検定試験は終わった。

俺の69日間に亘るロシア語の勉強にも区切りがついた。 69日間、毎日8~10時間ほどやっていたので、合計500時間以上は勉強していたと思う。

これほど勉強したのは、大学入試以来一度もなかった。

今日から3日前の11月22日、試験の結果が発表された。

俺の受験番号もあり、ロシア語能力検定4級に合格した。

そして昨日、ロシア語能力検定から自宅に合格証書と成績が送られた。 証書にはもちろん俺の名前が書かれていた。

ロシア語を始めた7月29日から4ヶ月ほどの月日が経っていた。

2012/11/25

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(2015/06/03)追記
昔のホームページに書いたことを少し修正したものです。あまり参考にならないかもしれませんが、僕は、このようにして4級取得しました。合計500時間以上勉強したとあるけど、ロシア語が得意な方であれば、10時間もいらないかもしれません。